介護度を下げ、介護給付費を下げる取り組みー岡山県岡山市

Okayama city 

岡山型持続可能な社会経済モデル構築総合特区について
~通称:AAA(トリプルエー)シティ岡山の推進~

<特区の取組>
平成23年度から総合特区制度を活用することを念頭に取り組みの強化を図る。平成25年2月に地域活性化総合特区として国の指定を受けた。事業のコンセプトは「高齢者が介護が必要になっても住み慣れた地域で安心して暮らすことができる社会の構築」とし、在宅に特化した規制緩和を求める11項目を提案した。
 
<特区要望一覧>
下記の11項目の要望のうち、5項目の要望(〇印)が実現にいたった。
〇通所サービスに対する自立支援に資する質の評価の導入(デイサービス・インセンティブ事業)
〇最先端介護機器貸与モデル事業
〇介護予防ポイント事業
〇医療法人による配食サービスの実施
〇訪問看護·介護事業者に対する駐車許可簡素化
■家族介護者支援 (レスパイトケア )推進事業
■多機能型訪問サービスの創設
■お泊りデイサービス業者への規制強化
■デイサービス送迎車を活用した外出支援事業
■在宅医療支援事業
ICTを活用した居宅療養管理指導事業
 
<デイサービス・インセンティブ事業について>
 

 現在の介護保険制度では、要介護度が高いほど事業者に支払われる報酬が高い仕組みになっており、利用者の要介護度が改善すると事業者の報酬が減ることとなります。そのため、本来あるべき利用者の状態の維持改善に対して事業者がサービスの質を向上させるモチベーションが上昇しません。また、利用者側から見ても、介護度が改善すると、サービス利用限度額が減ってしまうため、要介護度の改善を喜ばないケースもある。こうした状態を放置すれば、介護度の改善は進むはずもなく、結果として介護給付費やさらには医療費の増大につながっていきます。介護保険制度自体の矛盾を解決し、持続可能性ある制度に衣替えすることで、利用者と事業者が状態改善を目指して取り組んでいけるよう促していくことに特区制度を活用し果敢に取り組んでいるのが岡山市。
 
また、岡山市は通所介護サービス事業所の数が政令市の中で対人口比トップクラス。岡山市の高齢者 (1号被保険者 )1万人あたり通所介護事業者数は 17.3であり、政令市平均の 12.6と比較してもその多さが分かる (H26.3時点 )
そして、通所サービスの給付費が介護給付費全体の約 2割を占めている。岡山市にとっては通所介護サービスの給付費を抑制することが市全体の給付費抑制につながる大きな課題となっていました。そこで、通所介護サービスの質を評価し、介護度を改善する取組や成果に応じインセンティブを付与できないかと取り組みが検討され、国へ提言を行ってきました。
 
<提言に対する厚労省·有識者の意見>
■介護報酬は介護保険制度の根幹に関わるものであり、慎重な議論のもと全国一律で決定されるべきで、特区といえども、介護報酬の特例として実施することは困難
■通所介護サービスのアウトカム指標はこれまで確立されておらず、慎重な議論が必要
(要介護度は、利用者の状態像を示す指標ではなく、介護に係る手間を示す指標 )
■要介護度を指標とすると、事業所による利用者選別が起きる可能性 (クリームスキミング )
 ※事業者が介護度が改善しそうな利用者を優先して入所させるなどの利用者の選別が行る可能性を指摘される。
◆ 通所介護サービスの質を評価する場合、アウトカムだけに着目するのではなく、プロセス、ストラクチャーも併せて評価することが重要
 
(事業フロ一図)

市内の通所介護事業所(デイサービス事業所)の約 6割が参加をした。 5つの指標で、ストラクチャー・プロセスを評価。評価指標を達成した事業所にはアウトカム評価を実施し、上位事業所に奨励金を付与。また、 DASCモデル事業を併せて行い、認知症の早期発見・早期対応に努めている。
 
<事業効果について>
「定性的効果」
〇岡山市の通所介護事業所と協力しながら事業を実施する過程で、介護保険の理念である「自立」の再確認と、要介護者等の状態像を維持 -改善させることが利用者の QOLの確保につながるという意識の統一(規範的統合)ができた。
〇通所介護事業所が、日常生活機能評価を実施することで要介護者等の状態像の把握ができ、状態像を改善しよする意識を促すことができた。
 
「定量的効果」
〇要介護度の改善
実際の要介護度の推移を比較すると、要介護度の維持・改善を促した事業所に良い結果が得られた。参加事業所の方が、不参加事業所よりも要介護度の悪化が少ない。更に、アウトカム評価上位事業所は、要介護度が改善している。
※要介護度 (平均 ):便宜的に、要支援 1=0.3、要支援 2=0.5、要介護 15 =15として平均を取った
 

 
〇介護給付費の抑制
実際の介護給付費一人当たり月額平均の推移を比較すると要介護度の維持・改善を促した事業所に良い結果が得られた。参加事業所の方が、不参加事業所よりも給付費の伸び率が少ない。アウトカム評価上位事業所は、参加事業所よりも更に給付費の伸び率が少ない
 

*対象の高齢者に係る全て(デイサービス以外を含む)の給付費の推移
介護給付費は、平成 28年度事業費約 200万円に対し、▲ 7,000万円の財政効果があった。
※評価上位事業所及び参加事業所の介護給付費の伸び率( 1.9%と 10.8%)による給付費と、不参加事業所の伸び率 14.2%)による給付費の差から算出
 
<その後の国の動き>
平成 30年度報酬改定において、通所介護への心身機能の維持に係るアウトカム評価の導入された。
通所介畿事所において、自立支器・重度化防止の観点から、一定期間内に当該事意所を利用した者のうち、 ADL(日常生活動作)の維持または改善の度合いがが一定の水単を超えた場合を新たに評価する。
 
(通所介護)
以下の要件を満たす通所介護事業所の利用者全員について、評価期間終了後の 4月から 3月までの 1年間、新たな加算の算定を認める。
O評価期間に連続して 6月以上利用した期間のある要介護者の集団について、以下の要件を満たすこと。
①総数が 20名以上であること
②について .、以下の要件を満たすこと。
・評価対象利用期間中の最初の月において要介護度が 34または 5である利用者が 15%以上含まれること
・評価対象利用期間の最初の月の時点で、初回の要介護・要支援認定があった月から起算して 12月以内であった者が 15%以下であること。
・評価対象利用期間の最初の月と、当該最初の月から起算して 6月目に、事業所の機能訓練指導員が Barthel Indexを測定しており、その結果がそれぞれの月に報告されている者が 90%以上であること
・上記の Cの要件を満たす者のうち BI利得が上位 85%の者について、各々の BI利得が 0より大きければ 10より小さければ -10ならば 0として合計したものが、 0以上であること。
ADL維持加算( I3単位 /月(新設)
 
○また、上記の要件を満たした通所介護事業所において、評価期間の終了後にも Barthel Indexを測定、報告した場合、より高い評価を行う。
ADL維持加算(Ⅱ) 6単位 /月(新設)
~厚生労働省資料~

  
<今後の展開>
1.ストラクチャープロセスも加味した評価となる報酬改定の実現を目指し国と協議
2.訪問介護でも状態改善へのインセンティブ事業を実施
 
◎質の評価の拡充
平成30年度報酬改定においてアウトカム評価(ADL維持等加算)が導入された。
※バーセルインデックスで評価(デイサービス改善インセンティブ事業参加事業所は、事業の中で測定済み)状態改善を促すためには、アウトカムだけでなく、ストラクチャー(体制)・プロセス(サービス内容)も併せて評価する仕組みが必要
利用者の自宅での「自主トレ」を課している事業所では、状態改善に効果
訪問介護に焦点をあてた状態改善の取組を実施し、介護サービス全体へ広げいく
 
◎介護サービス全体の取組へ同山市の取組はデイサービスに特化しているが、例えば品川区は施設サービス事業所を対象にインセンティブ事業を実施している。
岡山市・品川区など、状態改善に関する取組を行っている9自治体で「介護サービス質の評価先行自治体協議会」を構成。取組情報を共有するとともに、持続可能な介護保険制度の構築に向け、政策提言を実施。

 
出典:「岡山型持続可能な社会経済モデル構築総合特区について」(岡山市)

 
<所感>
岡山市をはじめとする危機感の高い自治体の取り組みとその意気込みによって、平成30年度からADLの維持加算が創設されるに至ったのではないかと感じた。介護保険制度自体の矛盾はまだ散見されます。岡山市をはじめとする自治体の挑戦は引き続き行われていくものと考えます。
介護保険法1条の目的・理念にあるように、介護サービスの利用者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように、引き続きの制度改正がなされていくことを期待したい。区としても機能改善に力を入れる事業者の誘致に力をいれるように申入れを継続していきたい。

田中やすのり板橋区議会議員_なぜ区議会議員に?